裁定

注意事項:
※氷神×召使とかいうまだ何も始まっていないうえに(大嘘)始まる前に終わりそうなCPの妄想を繰り広げた産物です。
※おそらくこの文自体の実際のニュアンスは氷神+召とか氷神vs召の方が近いですが、よこしまな感情をもって書いた産物なので×にしています。
※山ほど捏造があります(捏造しかないです)。
※女皇視点で進行します。女皇は、人称「わたし」の敬語口調にしています。
※5/4新刊から派生した世界線の話ですが、単体でも読めると思います。

 

執行官が殺された。それは冬国に大きな衝撃をもたらした。女皇はその知らせを哀悼をもって受け入れた。彼女は優秀な駒であった。彼女が死んだ跡には灰さえも残っていなかったが、空っぽの棺はそれでも丁重に埋葬された。
スネージナヤの長きに渡る反逆の歳月の中では、執行官の代替わりは珍しいことではない。女皇は大勢の歴代執行官との別れを経験してきた。けれども、執行官が殺されたというのは確かに珍しいことだった。しかも、まだ年端もいかない子供に。
執行官『召使』——女皇の同志であり、忠実な手足であった者を殺したのは、まだ幼い子供だった。壁炉の家の主人は、その家の子供に殺された。そしてその子供は、殺された執行官の計画における『王』だった。

神は、その子供が拘束されているという牢獄に降り立った。単純に興味があった——執行官を倒すほどの強さを持った者に。そして、裁定をしたかった。その者が、自身の理想に共鳴するかどうかを。

その子供は特徴的な瞳を持っていた。その目の形状だけで、神は大方を悟った。——あの執行官の計画は成功した。成功者は、それを見届ける前に世界に還ったが。
その瞳は暗く、底知れない闇に覆われていた。神はそこに陰惨な絶望と、自身の境遇への諦観が同居しているのを見た。その瞳が憎悪に揺れ、寂寥に揺れ、悲嘆に揺れるのを、神はしばらく観察していた。けれどもその瞳は、結局ただ穏やかな諦観で覆われていった。……小さな窓から空を見上げているときだけ、子供は無垢な驚嘆の色を露わにした。神はその純粋な眼差しの色を気に入った。
彼女は現状に不満を抱いていない。ただ己の運命を受け入れている。恐らく——神は推察した。彼女の目的は、あの執行官を殺すことだけだった。それ以外、彼女はもう何も求めていない。……けれども。

いいえ、ここでその意志が倒れてもらっては困る。
彼女には我々の同志になってもらう。

それは前任の成果を無為にしないためでもあり、その子供の瞳の奥底に、この身にもよく馴染んだものを見たからかもしれなかった。それは女皇が最もよく知っている炎——反逆の炎だった。

尊き氷の来訪に、その子供は驚きこそしたようだったが、決して動じることはなかった。氷神はその瞳に警戒の色と、この先どうなろうが構わないという達観を見た。
神の挨拶を聞き終わると、子供はこう問うた。
「あなたは」
その言葉は端的で、重い。
「知っていたのですか?」
子供の瞳は鋭さを増し、まっすぐにこちらを射抜いた。だから神もまっすぐ見返した。
「壁炉の家は『召使』の領分でした。わたしは、各々の執行官のやり方に口を出したことはありません」
必要なのは嘘偽りやごまかしではない。神も子供も、それらにはとっくにうんざりしている。
「けれども彼女の計画は、わたしの統治下で起こったことです。そのことを否定はしません——ごめんなさい、ペルヴェーレ。あなたをこの世界の悲しみに付き合わせてしまいました」
氷の手が炎に触れ、その頭を撫でた。子供は警戒で身を固めたが、その手を拒絶まではしなかった。ややあって、子供はしばし目を伏せ、その冷たさを受容した。

女皇に連れられて牢獄を出るとき、その子供は不意に立ち止まり、視線を天上に向けた。
「空が好きなのですか?」
「……ええ。この国の空はとても美しいですね」
神もそちらを見た。今日の天幕には月と星々が燦々と輝き、その下で色鮮やかな光の幕が踊っている。
確かに壮麗な眺めだった。——けれどもそれら全ては偽りに過ぎず、我々が打ち倒すべき理を最も如実に表すものでしかない。
神は奇妙な微笑みを深めた。
けれども、そのことを今教える必要はないだろう。いずれこの幼き者も気づくことなのだから。

我々は星を目指す。
我々は深淵を目指す。
そして、我々は偽りの太陽を、偽りの月を打ち崩す。

やがて、その幼き者も真実を知った。
その子供は、短い歳月の間に随分と変わった。彼女は早々に成長を遂げ、少しの間に随分と弁舌がうまくなり、壁炉の家の『統治者』となった。あの寡黙で実直な子供の面影は、もう滅多に見られなくなった。
神は、旧知の執行官『淑女』と新任の彼女が接近したのを見た。女皇とほとんど同じだけの長い年月を共に理想に向けて歩み、その道がずっと孤独に焼き払われていた淑女に訪れた変化を、神は決して態度にこそ出さなかったが、内心歓迎した。
神と彼女は存外穏やかな時間を共に過ごした——彼女のお茶会に招かれることさえあった。そのお茶は、氷の神には熱すぎたのだが。

壁炉の家は、彼女が引き継いだ。家の方針は随分と変わった。とはいえそれはどの世代でも同じことだったので、女皇は黙って見ていた。壁炉の家の管理方針は、そのときの管理者に委ねられている。神が口を出すことではない。そもそもこの家の前身はこの国のものではなく、よって諜報機関でもなかったのだし——壁炉の家がスネージナヤで今のような立ち位置になったのは、各地の有能な子供たちを集めるのと同時に彼らを有効活用しようとした、ただの副産物だった。前任は確かに子供の選抜のために過激な手段をとったが、壁炉の家の目的は古から変わったことはない。この家の前身——もう滅びた王国の教養院もそんな目的を持ち、子供たちは選抜され、厳しい試練が課されていた。
その呪われた運命を持つ家が、変わろうとしている。
壁炉の家について彼女なりの理想があり、それを追い求めていることは女皇も知っていた。
かつて、女皇の前で彼女は口にした。
本当の家を作りたいと。
真に自由な家を作りたいと。
同胞の遺志を継ぎ、果たすことこそが、私の望みだと。

自由。その言葉を聞いたとき、つい笑い声がこぼれでた。旧知の仲であり、もう打ち倒すべき敵となった知り合いのことを思い出しただけだ。もちろんかの神のことはよく知っていた——自由を標榜しながら、その身が全く自由ではない神のことを。それでもなおも自由という信念を愛し、貫く神のことを。
彼にはもう随分と会っていない。
終局まで、きっと会うことはない。あるいはもう永遠に。

自由の綻びは女皇からすれば明白だったが、その理想の実現に対する彼女の意志は強固だった。
神は彼女を哀れに思った。血の呪いと同胞の遺志、双つの相反する運命に束縛された飛べない鳥。
そしてその狂気を恐ろしくも思った。けれども彼女なら、その理想をまるごと叶えるかもしれない。自身の縛られた運命にも刃向かい、己だけの結末を手にするかもしれない。
——神は少しだけ、彼女の終点がそうであるようにと願った。

彼女のその理想は十年経っても変わらず、けれども彼女は静かに考えを変えたようだった。
「諦めたのですか?」
そう問えば、彼女はかぶりを振った。その瞳にはまだ燃え盛る炎が映っている。
「いいえ、女皇様。諦めたのではありません。次の世代の者に託すことにしたのです」
人間の一生は、神からすれば驚くほどに短い。とりわけ彼女には時間制限がある——その身に持つ呪いは体を蝕み、その炎は身を焦がし、彼女を終点へと駆り立てる。神はそれを、一滴の哀れみとともに見つめていた。その炎はいずれ、旧世界を焼き尽くすために使われることになる。

けれどもこの短き十年で、世界の局面も随分と変わろうとしていた。
神は運命の足音を聞いた。
この計画はもう終局まで迫ってきている。
長き苦痛の時を過ごしてきたスネージナヤも、やがて結末を手に入れる。

時は来た。
足音は響き渡る。それは我々の軍靴であり、旧秩序を踏みつける革命の音である。
旧世界は破壊され、この星は我々の新しい秩序により生まれ直す。
——かつて天理がこの世界の大権を簒奪したように。

けれども、その新しい秩序でも足音は響き渡る。
その足音の持ち主は、赤い鎌を持っている。
その反逆者は、わたしの秩序を裁定しようとしている。

——運命は繰り返される。
——それは幾度となくこの星で繰り返されてきたこと、物事が必ず辿る道だ。

彼女を拾い上げたときから、そんな予感はしていた。
何故ならば、彼女の瞳に宿る反逆の炎は、この身に宿るものと同じだから。

彼女はわたしと同じだった。
果てしない夢のような理想を叶えようと妄念を抱き、その実現のためならばどのような手段も厭わない。
その目には狂気のような信念しか映らない。
かつて世界に絶望し、天を弑した者。

彼女に自身と同じ炎を見たからこそ、神はあの牢獄で彼女の鎖を解いた。
けれどもだからこそ、結末は明白だった——我々の理想が交わらない限り、彼女とは刃を向け合う運命にある。

「女皇様」
神に向かって、彼女は問う。
「世界は変わるものです。やがて新しい芽が出て、古い大木は朽ち果てる。……その新しい芽に、あなたはなる」
随分と成長したかつての芽が、そう口にする。
「けれども理への不満と反逆は巡るものです。いつか旧世代は新世代に殺され、ルールは塗り替えられる」
家の統治者が、そう口にする。
「——あなたが新世界を創造したのち、あなたの秩序に刃を向ける者が現れたら、どうされるおつもりですか?」
反逆の運命を背負った者が、そう問う。
神は微笑んだ。理がどのような結末を辿るのか、神はよく知っている。他ならぬ反逆者が自身なのだから。
「世界の秩序となった者は、理の綻びを許容できない――わたしもそうなるでしょう。それはあなたもよく知っているでしょう?」
もちろん目の前の彼女も、そのことはよく知っているはずだ。彼女はかつて『反逆者』であり、今では『統治者』なのだから。

理となった者は、理の綻びを許容できない。
だからこそ、神も彼女もよく知っている——この身が理となった以上、この首にはいつだって刃がかけられうることを。

いずれ、わたしの首には彼女が刃をかける。
神は、彼女がスネージナヤの理想に共鳴していることを、けれどもこの革命の行く先に疑いを持っていることを知っていた。

そして、彼女の首にも刃がかかっている。
その刃は神であり、スネージナヤの理想に忠実な者たちでもあり、彼女が育てた子供たちでもある。

いつか天はひっくり返される。
いつか運命は結末を明かす。
いつか我々は裁定される。

けれども、それはまだ今ではない——運命の足音がどんなに近くまで響き渡っていていても。
だから神と彼女は今、一緒にお茶を飲んでいる。

「——アルレッキーノ、やはりこのお茶はわたしには熱いですよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈蛇足の後書き

・元々「クリーヴとペルヴェーレが渇望したオーロラは偽りに過ぎない」という真相があったら逆にいいな…と思っただけだったんですが、とはいえ最近は、オーロラって冬国特有の事象だし、偽りの空の範疇ではないのかもしれない…(そうであってほしい…)と思っています。

・とはいえ正直、冬国の女皇周りの関係性の肝は女皇+道化だと思っており……深掘りがすごく楽しみです。

・ちなみに今後の展開への妄想語りなんですけど、絶対…ぜったい〜〜〜……冬国の「天理に反逆する」は、風の国でかつて行われた「神を倒し、自由な青空を見る」に概念として接続されると思っており…あの…本当に本編の展開が楽しみです(語彙力消失)