淑+召のSSS。淑女の死について。召使視点。

 


 

彼女は尊大で、気高かった。
彼女は薔薇の棘のように鋭かった。
彼女は随分と気難しく、けれども根元を理解してしまえば分かりやすい人だった。
彼女はどこか子供のような側面も持つ、あどけない人だった。

彼女は決して癒えることのない傷を持ち、
彼女は決して埋めることのできない空洞を持っていた。

彼女と召使は多少なりとも親しくなったが、それでもそれは彼女にしてみれば、随分と長い人生のうちのほんの一瞬に過ぎなかっただろう。

我々は一度炎の中で死に、氷の中で新しい生を得た。

その炎は地上の全ての魔物を焼き尽くし、
その炎は彼女への恐れと偏見をもたらし、
その炎は彼女自身を焼き尽くそうとした。

その氷は彼女に新しい生をもたらし、
その氷は彼女に安寧と新たな道を示し、
その氷は彼女を理想の追求の中に閉じ込めた。

彼女はこの瞳を覗き見ても狂うことはなかった。
彼女はもう既に、スネージナヤが掲げる未来に狂気的なまでの信念を捧げていたから。

彼女は随分と長く死の淵を歩いていたが、死に飲み込まれることはついぞなかった。
死の淵は彼女にとって当たり前の情景になりすぎていて、いちいちその深淵を覗き込んだりはしなかっただろう。

 

けれども、死は誰に対しても平等に訪れる。

 

稲妻での旅の話を、旅人から聞いた。
旅人は淡々とそのときのことを話した。その目はときどき慮るように、そして警戒するようにこちらを伺った。その視線は召使の心にさざ波を起こしはしたが、ただそれだけだった。ただの波紋はいずれ消えゆくものだ。
そのときはまだ、淑女との関係がどのようなものであったかを旅人に開示していなかった。その方が旅人が脚色を加えずに話すだろうと思ったからで、開示する理由も特になかったからだった。

旅人に何か思うところがあるわけではない。
あの局面では淑女の敵であり、勝ったのは旅人だった。それだけだ。
雷神に何か思うところがあるわけでもない。
召使だって似たような立場だ。規則は守られなければ、秩序は維持できない。

だからただ、彼女の最期がどのようなものであったのか、知りたかっただけなのだろう。

「淑女は、御前試合で負けて殺された。勝敗が決した後、雷神は淑女に向かって歩みを進めて、……雷神に向かって、淑女は最後にこう言ってた——」

それはずっと想像を巡らせていたことだった。
そして、知らなくてよかったことかもしれなかった。
聞いてから召使はほんのりと後悔した。
それは恐らく、勝者からの、物語る権利を得た者からの伝聞という形で知らされるべきものではなかった。
それに、知ったところでどうにもなるわけでもない。ただ淑女にとってもその死は想定外であったのだと——分かったことはそれだけ。

それはあまりにも突然訪れた死だった。
けれども死とはそういうものだ。
人の命を刈り取るときは一瞬にすぎない。

死が振り上げる鎌と相対したとき、彼女は何を思っただろう。

「……ロザリン、あなたも月並みな恐怖に身を震わせたのかな」

それは少し苦い感慨だった。
けれども確かにその事実はすとんと胸に落ちた。
彼女は死を、終わりを恐れただろう。ましてや、それがあのように唐突に現れたならば。

まだ彼女の大願は成就していなかった。
まだ冬国の大願は成就していなかった。

この革命の結末を、彼女は見届けられなかった。