墜落

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紀行PV「星空の寓話集・その二」のif SSS。 宇宙ステーション「ヘルタ」視点。 ※注:キャラ死亡匂わせ有。この結末を辿らないよう祈っています…。

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(——あ、)
 アスターはこの世界の終わりを見ていた。
 それは考えられうる限り、最悪のシナリオだった。

 宇宙ステーション「ヘルタ」が、惑星ブルーに向かって墜落してゆく。

 過去に、壊滅の軍勢の襲撃事件があってから、宇宙ステーションの軍事的配備を見直し、防衛体制を十分に整えていた。
 けれども足りなかった。

 壊滅の軍勢とその脅威について、あらゆる方面から最新の知識を仕入れ、対策を取り入れていた。
 けれども足りなかった。

 襲撃への対策は十分に行っていたつもりだった。
 けれども、足りなかった。

 アスターは声を張り上げ、スタッフに指示を出しながら、それでもひしひしと迫る絶望を感じていた。

(ごめんなさい、スタッフのみんな)
 こめんなさい、守れなくて。
 アスターの手腕が足りなかったばかりに、この宇宙ステーションは壊滅に呑み込まれてしまった。
 職員たちが必死で逃げ惑う。脱出用の宇宙船カプセルは次々と開けられていくけれど、それらも離陸と同時に壊滅の軍が飲みこんでいく。そのさまをずっと、アスターは見ている。宇宙ステーションに残ったスタッフたちも、見ている。

(ごめんなさい、アーラン)
 ごめんなさい、私の選んだ道に巻き込んでしまって。
 自分が彼をここに連れてきたばかりに、彼の運命を変えてしまった。
 彼はここにはいない。きっとどこかで死に物狂いで戦っているのだ。いつも無理ばかりして、傷ばかり負って、けれどもその無茶を叱る機会はもう訪れないだろう。そんな冷たい予感が胸を刺した。

(ごめんなさい、ミス・ヘルタ)
 ごめんなさい。あなたが守ってきたあなたの故郷と、あなたのコレクションを守れなくて。私がこの場所を預かっていたのに。
 この宇宙ステーション「ヘルタ」の主、この場所の名前を冠する存在、気まぐれな天才の顔が脳裏に浮かぶ。どんな難題もその頭脳で鮮やかに解いてしまい、そしてアスターに無理難題を押しつける人。アスターの恩人。アスターの救世主。彼女は今どこで何をしているのだろう? 彼女はこの惨状を見て、アスターに失望するだろうか? アスターを叱責するだろうか?
 けれども、彼女に再び謁見する機会は、もうきっと永遠に訪れない。
 もしくは、最後にカンパニーからもたらされた情報が正しいのであれば、彼女さえも、今。
 崩落の振動で視界が随分と揺れ、振動がぐわんと響いた。アスターは頭を抑えた。
 銀河に燦然と輝くあの天才たちでさえも、この壊滅の波に呑まれてしまう。

(ごめんなさい、ママ……)
 最後に、定期的にメールを送ってくる最も近しい肉親のことを思った。
 母親は古くから続く家系の輝かしい偉業の上に、同じくらい輝く存護の石を積み重ね、アスターにもその道を進むことを期待していた。彼女は最も近しい肉親であり、アスターの運命を決める存在でもあった。
 そのしがらみを鬱陶しく思ったことも、恨みがましく思ったこともある。けれども結局、アスターはこの宇宙ステーション「ヘルタ」に来て、自身の望みを叶えた。だから今湧き上がるのは、ただ最近あまりきちんと言葉を交わせていなかった後悔と、母親ときちんと向き合ってこなかった後悔と、彼女を残して先に自分が死んでしまうであろうことへの申し訳なさだった。
 今回の壊滅の標的が知恵なのであれば、少なくともスターピースカンパニーの中枢はまだ無事だろう。母はきっと生き残り、そして娘の訃報を聞くのだろう。

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 軌道エレベーターが切断されたとの警告が鳴り響くと同時に、より大きな振動が宇宙ステーションを襲った。
 ついに立っていられなくなり、アスターはその場にうずくまった。

(ごめんなさい、ブルーのみんな)
 もうアスターにはどうしようもできなかった。宇宙ステーション「ヘルタ」は、じきにブルーに墜ちる。この研究者の楽園は、じきに地上に叩きつけられる。
 地上の方の避難が間に合うのか、アスターには分からない。ブルーでも落下影響の予測と避難勧告は出ているだろうが、この壊滅の侵攻はあまりにも急に進んだ。スターピースカンパニーから緊急連絡が来てから5分、ヘルタ内で最初のシステム警告が出てからまだ1分も経っていなかった。

 地面に這いつくばって、この知恵の楽園が墜落していく先を眺めた。
 「あなたの瞳と同じ色だね」とかつてミス・ヘルタに言われたその惑星を。
 今となっては故郷のように慕わしい星に、今から自分達は墜ちる。

 視線を上げて、最後に目にしたのはずっと見てきた星空だった。
 この星空を求めてここに来たはずなのに。
 その星空は今や、壊滅の軍勢に覆い尽くされている。

 アスターは星空を見つめた。
 星空の遠くから、何か救いの光が現れないかと縋るような思いで見つめた。

 けれども助けは来ない。
 あの過去の襲撃のときに、支援に来てくれた列車も来ない。

 もしかしたら、なんて、そんな奇跡は起こらない。

 全宇宙が危機に瀕する中、ここを気にかける余裕はどの勢力にもなく、
 壊滅は、辺境の小さな知恵の城でさえも、例外なく屑鉄に帰す。