ぼすん、とアズールの横の席に置かれたのは、馬鹿でかいウツボのぬいぐるみだった。
「お客様、相席させていただいてもよろしいでしょうか?」
「……なんです?」
モストロ・ラウンジの閉店後、カウンター席で書類の山の確認をしていたアズールは、眉を上げてジェイドを見やった。意味が分からない。
「空席にぬいぐるみを置くカフェが、以前話題になったでしょう。モストロ・ラウンジでも導入できないかと思いまして。いかがでしょう?」
「……それ、どこから持ってきたんだ」
「僕の私物ですよ」
そんなの持ってたのか、こいつ。
ぬいぐるみといえどウツボはひょろ長いので、尾びれが席からはみ出している。明らかに椅子に置くには適していない形状だ。
そしてアズールは確かに、そのカフェの話題で随分とマジカメが賑わっていたことは覚えていた。だがしかし、仕入れて即、頭から放り出したトピックでもある。何故ならば。
「……ウチの雰囲気には合わないでしょう」
そうですか、と答えるジェイドは半ば予想していたげだ。つまりはこのウツボは、今日一日ろくに接点がなかった恋人に、ちょっと構ってほしかっただけなのだ。分かりにくい。
「ですので、却下します。それに、」
目の前のストールを引っ張った。ジェイドが自動的に身をかがめる。便利だ。ちゅ、と唇を触れ合わせる。
「僕はこっちの方がいいです。……ほら、お前も空いたなら手伝ってください。3分の1ほど見てもらえますか?」
「……ひどいです……」
そうつぶやいてぽぽっと頬を染めたウツボは、2分の1ほどの紙束をざっと取り、呼び止める暇もないまま一番遠くの席に行ってしまった。